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生きながらフリッカーに葬られ

Buried Alive In The Bogus


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Seventh Code (セブンス・コード)

  1. 2014/03/10(月) 23:01:19|
  2. 邦画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
三千里 わが恋人の かたわらに 柳の絮(わた)の 散る日にきたる   ――与謝野晶子

pic01.jpg

明治四十五(1912)年、与謝野晶子は先に巴里へと旅立った夫・鉄幹に焦がれ、気も狂わんばかりの日々を過ごす。
五月、つのる思いを抑えきれず、晶子は鉄幹のあとを追う。新橋駅から旅立つ晶子を見送る人々の数は五百人にも
及んだという。匆々たる見送りの面子の中に、平塚らいてうの名も見える。
新橋から敦賀へ。そしてそこから船でウラジオストックへ。彼の地からはシベリア鉄道が西洋へとつながっている。

現代の極東の島国に住む我々には、ウラジオストックという場所がかつて持っていた象徴性は、即座に理解しがたい。
扉を開けてくぐり、振りかえれば、先刻まで入り口であったそれは出口となる。
ロシアの外れに位置するその街は、かつてモスクワから訪うた人にとっては終点の地であり、明治から昭和初期の
日本人にとっては、遙かなるヨーロッパへの始発点でもある、旅人が交差する土地だった。
晶子が旅立った十五年後には宮本百合子が、十九年後には林芙美子が、シベリア経由で洋行を果たしている。
強い女たちの名前が並ぶ。
当時の旅の困難さは想像を絶する。だが困難さをねじ伏せる強さ、しなやかさを彼女たちが持っていたことは、
彼女たちの創作物に触れることがあれば、即座に了解できるだろう。

ウラジオストックという街は、日本史に名を残すような強い女たちが、旅を始めた場所だったのだ。


黒沢清監督の新作「Seventh Code」である。
黒沢清は主役を演じた前田敦子に、「秋子(あきこ)」という役名を与えた。役名が示唆するところは云うまでもない。

秋子は、一人の男を捜し、ウラジオストックにやってくる。だが探し当てた男・松永(鈴木亮平)は彼女を拒絶する。
行く当てを無くした彼女は、彼の地でレストランを営む奇妙な日本人(山本浩司)に拾われる。そこには彼の恋人
である中国人の女(アイシー)が居た。レストランで働きながら、それでも松永を追い求める秋子の前を、ある日、
見覚えのある青い車が通りすぎる……。

本作の見せ場は、なんといってもウラジオストックという街そのものだ。
ウラジオストックこそが黒沢清にとって、そしてわれわれ黒沢ファンにとっての約束の地であったのだ。
いや、あのさぁ(急に口調を変えて)、われわれ黒沢ファンの、長年のいじましい渇望を知ってます?
そらもう、楽器屋のショーウィンドウの前でトランペットを眺める黒人少年に劣らんくらいの、渇きと憧れがそこにあったわ。
例えば、監督の前作「リアル ~完全なる首長竜の日」(感想はこちら)で、松重豊演じる父親が、廃墟にゴミを捨てる
シーンがありましたよね。あの背景の廃墟は実に「黒沢清っぽく」て、われわれファンはにやついたわけですが、
同時にそこに諦念があったわけですよ。カメラをわずかに左右に振れば、そこにはサラ金の看板とか、軽トラとか、
どうしようもない現実が広がっているのだろうと。黒沢清が現実からわずかに切り取ってくれる「黒沢清っぽい
ショット」(それは一作につき、多くても数ショットくらいのもんなんだけれど)でわれわれは満足するしかないと。
そこに本作ですよ。
もうどのショットを切り取ってみても、そこには黒沢清の刻印が押されているんですよ。
まるで黒沢清に撮られるためにこの街が存在するかのように。
あっちゃんが映画の中で曲がった路地。その一本向こう側の路地にすら、「黒沢清っぽい風景」が広がっていると
われわれは確信できる。
内部に鬱蒼とした緑の繁った廃工場、べたべたとポスターの貼られたレンガの壁、駅へとつづく濡れた舗道。
松永を追いかけて、山本浩司と前田敦子が街中を疾走するシーンなんか、ショット全てが恍惚感を与えてくれました。
右から左へ、斜め上方へむけて駆けて行く二人と交差して、左から右へ、斜め下方に電車が下りてくる!
その瞬間の、映画的恍惚!
松永の部屋の広大なムダ空間(オレンジのカーテンが印象的)しかり、ラストの荒野しかり。
こんなもん、日本で撮れないわ!
キヨシ、あんたのスケールに合った場所を見つけて良かったね! そのままロシアの子になっちゃいなさい!
……と思わず叫んでしまいそうになるほど、映画的豊穣さに満ちた、愉悦の一時間でありました。

これはまた、黒沢清という類い希なる監督が、前田敦子という類い希なる女優と出会った、幸福な一作でもあります。
前田敦子という女優さんは実に不思議な存在感を持っている方でして、「苦役列車」の頭突きで気づいた人は
気づいたと思うんですけれど、スタティックな状態から、ポジであれネガであれ、
いきなりエクストリームな方向へ突き抜けていく不穏な雰囲気
を身に纏った人なんですね。無表情でなんの動作もしていない時でも、次の瞬間にはとんでもない方向へ
突き抜けていきそうな。それは無論、黒沢清的な映画の瞬間でもあるわけなんですわ。
だからこの作品の終盤の展開は、完全に中の人当て書きで書いていると俺は思います。
前田敦子という人の中に、秋子という不穏な存在が眠っていることを、黒沢監督は見抜いたのでしょう。

有能な監督が、才気溢れる新人女優を起用し、約束の地で撮った。
こんな幸福な映画がまたとありましょうや。
まだ三月ではありますが、本作を今年度ベストワンとさせていただきます。


劇中、中国人の女、シャオイェン(アイシー)が、「力」について語るシーンがある。
それは「世の中を、私の望む方向へ、ちょっとでも変える」ものであると彼女は云う。
彼女は、斎藤(山本浩司)が「好きな店を出すとか、家を建てるとか、おいしい物を食べるとか」そう云った俗世的な
思考の軛から逃れられないことに苛立ちを感じている。力とはそういうものではない。
「世界」が強いるヒエラルキーの中で、わずかでも順位を上げること。それは「世界」に隷属することに他ならない。
シャオイェンは「世界」そのものからの飛翔を求めているのだ。

シャオイェンが去ったあと、斎藤は一か八かの賭けに出て、拳銃を手にする。
その自暴自棄な賭けは無残な敗北に終わるが、斎藤のせめてもの飛翔も、「世界」にとっては蝶の羽ばたきのような
ものに過ぎず、「世の中を、変える」ことはできない。斎藤の思考はどうしてもそこに至らない。

ただ一人、秋子だけが「世の中を、変える」力を持っていることが示される。
何の力もない、か弱い少女が、実は力を持っている。そこに奇妙な逆転がある。
gloria.jpg
先日、カサヴェテスの「グロリア」を遅まきながら観たのだけれど、劇中でグロリアが銃を撃つシーンで俺は驚愕した。
それはあまたのアクション映画で観てきた「銃」とはまるで違うしろものだった。なんの取り柄もない、老いた中年女。
その女が銃を取る時、銃声は弱者と強者の逆転を告げるファンファーレとして響いた。
銃ははっきりとした「叛逆」の象徴であり、シャオイェンの云う「世界を、変える」力であったのだ。

気づけば、「武器を手にした美少女」や「男より強い女」がフィクションの中で溢れた時代が現代だ。
だがそのうちの何人がグロリアや秋子が持っている「世界を、変える」力を持っているだろうか?
はっきりと弱者の立場に身を置きながら、強者の喉に突き立てる牙を持っている存在がどれほどいるだろうか?

秋子には過去の来歴も未来の展望も示さない。ふらりとやってきて、またいずこかへ去っていくその様は、
西部劇の主人公を彷彿とさせる。実際、本作は古典的な西部劇と同一の構造を持っている。

男と世界に隷属し、媚びを売るあまたの「戦闘美少女」の屍のむこうにある荒野。
その荒野に秋子は、前田敦子は一人、独り、屹立する。
願わくば、その荒野のむこうに、こちらへむかっていく新たな「力」を持った女が現れますように。
本作は、その時代の胎動をつげているのだ。

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